不況時は、どんなに汗水たらして知恵を絞っても売れない。
好景気の時の10倍の時間をかけても、いくら素晴らしい提案しても売れない。
需要が減り、ライバル会社と奪い合うパイの大きさ自体が小さくなっている。
値引きして利益を減らして、数を出す(販売量をあげる)?
なんか違うんじゃない?
じゃあ、できる営業マンは不況の時には何をしている?
不況の時、できる営業マンは無理に売り上げ数字だけを追わない。
売り上げよりも大切なことにその能力を最大限に費やす。
- フリーキャッシュフローの改善
- ワーキングキャピタルの最適化
ここでは、できる’営業マンがどの様な役割で何をするかを紹介する。
不況になると起こること
- 売り上げの急降下。
不況の始まりは急激な需要低下。
自社だけでなく業界市場、社会全体が坂道を転がり始め、勢いを増す。
- 難しい売上予測。
不況は単純にお客様の問題や自社製品の問題ではなく、社会全体の問題が複雑に絡み合って起こる。
一時的な施策として自社の価格を下げても、その効果は続かない。
- 利益の急速な減少。
利益=売上金額 - コスト
コストは売上計画、予測、内示に基づいて売上が立つ前に費やされる。
急な売上低下にコスト調整はどうしても後追いになる。
- 売り上げ低下、利益減少に対応する変動費低減の為の施策。
コスト低減は先ずは変動費から始まる。
製造業の場合には燃料費、原材料費、部品費などが需要に応じて自動的に購入金額が減る。
販売管理費など数量に応じた契約の支払いが減る。
売上数量がある限り、この様な費用はゼロになることはない。
アルバイト、業務のアウトソーシングなどの人件費は変動費として需要の調整弁。
- 損失(赤字)を防ぐための更なるコストカット。固定費の低減。
変動費の低減施策だけでどうにもならない時、あるべき利益を確保する為には固定費にも手をつけなければならない。
「乾いたぞうきんを絞る」のは固定費のコストカットである。
減価償却費や支払利息、賃借料、正社員の人件費などが対象となる。
直接的には営業キャッシュフロー低下の圧力となる。
さらに、経営指標に対する成績低下から将来的なファイナンスコストにも当然影響する。
売り上げよりも大切なこと
ピーター・ドラッカー氏は彼の著書のなかで、つぎの様に述べている。
売り上げは「トップライン」といわれ、利益は「ボトムライン」と呼ばれる。
損益計算書(P/L)においてそれぞれが記載されるところに由来される呼び方であるが、つまりは成績表の一項目である。
学校の勉強でも事業活動でも同じく、成績表はある期間の結果。
大切なことはその期間の活動によって得たものをどのように仕組み化し、継続して改善していくか。
ビジネスにおいては、キャッシュフローや資本、その管理である。
キャッシュフローと営業マン
言葉を変えて言えば「資金繰り」。
ピーター・ドラッカー氏が伝える「先に考えるべき」管理であり、その仕組みが重要。
お金の注ぎ口の「蛇口」を大きく開けて、お金の出口の「蛇口」を小さく絞って、会社にできるだけ長い間お金をプールして運用するか。
不況の時には、これがとても大切になってくる。
ただ不況期だけでなく、不況から脱出した後の好景気を見据えて戦略的にコントロールする。
各項目をリードするプレーヤーを企業の中の部署、機能別に仕分けると次の通り。
Inlet お金の注ぎ口
- 売上金額;営業部門
- 雑収入;財務経理部門・管理部門
- 借入金・株主資本;財務経理部門
Outlet お金の出口
- 売上原価;購買部門・製造部門(・営業部門)
- 雑損;財務経理部門・製造部門・管理部門
- 販管費(販売管理及び一般管理費);輸送・営業・広報・開発及び管理部門
- 借入利息・借入金返済・配当金;財務経理部門
また、キャッシュフローは次の3種類に分類される。
1.営業活動キャッシュフロー
営業活動によるお金の流れを示す。
商品の販売やサービスの提供など、会社が営業活動から得たキャッシュの流れ。
営業部門は有利な価格契約、販売量の拡大と需要見込みそして売掛金の回収に大きく関与する。
2.投資活動キャッシュフロー
投資活動によるお金の流れを示す。
設備投資や固定資産の取得・売却によるお金の増減。
製造業では、機械装置や型・治工具などがはいる。
営業部門は需要見込み情報から追加固定資産の要否、導入時期の判断に寄与する。
3.財務活動キャッシュフロー
財務活動によるお金の流れ・増減を示す。
会社がどのように資金調達をして、どのように返済したか。
この活動において、営業部門は直接・間接的な関与は薄い。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは多ければ多いほど経営状態が良好といわれる。
フリーキャッシュフローを増やすためには
- 営業キャッシュフローを増加させる。
- 投資キャッシュフローを縮小する。
不況時は売り上げが伸びないからと、単純に投資キャッシュフローの縮小の為だけに、例えば新規設備投入をキャンセルしたり、設備や工場を売却すると一時的なフリーキャッシュフローの改善は得られる。
しかし、いったん売却した工場や設備、延期した新設備導入は、将来的に来る不況からの脱却と好景気の際に出遅れて、機会損失とならないようにうまくバランスをとりたい。
キャッシュフロー改善の施策(営業マン)
営業マンがキャッシュフロー改善に寄与するエリアは上に述べた通り、
ワーキングキャピタル
または
ビジネスを運営していくために必要な資金。
一般的なB to B 法人向けビジネスにおいては、現金の流れに時間的な差異がある。
- 売掛金と在庫という現金化して入金していないもの
- 買掛金という未だ支払いしていないもの
これらの差をコントロールする為に資金が必要となり、これを「資金繰り」ともいう。
損益計算書(P/L)が黒字でも、ワーキングキャピタルが急増して資金繰りに行き詰まって、不渡り、倒産することもある。「黒字倒産」
ワーキングキャピタルは絶対額の大小が評価の対象ではなく、以前に期間の実績や今後の見通しなどを需要と照らし合わせて、「適切に」コントロールすることが大切。
ワーキングキャピタル最適化の施策(営業マン)
不況時には、ワーキングキャピタルをスリムに絞り込む。
前項の図と計算式から察することができるが、単純にいうと売掛金・棚卸在庫を最小に、買掛金を最大にするとワーキングキャピタルは最小化される。
1.流動資産
- 売掛金スリム化=入金サイトを短縮する(例;90日→30日、あるいは現金払い)
- 棚卸資産スリム化=①原材料・設備など購入品の在庫数を最適化 ②完成品在庫数の最適化
2.流動負債
- 買掛金の支払いサイトを延長する(例;60日→120日)
前々項の『キャッシュフローの改善(営業マン)』で述べた、
まとめ
不況の時、できる営業マンは無理に売り上げ数字だけを追わないもの。
こういった時には、売り上げよりも大切なことにその能力を最大限に費やす。
- フリーキャッシュフローの改善
- ワーキングキャピタルの最適化
そのために知恵と時間をかける行動は
- 精度の高い需要予測をする
- タイミングの早い入金にする
場合によってはそのために価格の値引きを含む、好景気の時にはしない戦術をとることも。
不況の時と好況の時にとる戦術が違うことを、できる営業マンは理解し、実践する。
~文末~